間葉組織由来の血管新生抑制因子に関する研究

 間葉系組織の中では、軟骨は例外的に無血管な組織である。また、腱や靭帯も血管網に非常に乏しい組織であることが知られている。一方で、これらの組織に隣接する骨、筋肉は、血管網に富む組織である。すなわち、間葉系には血管侵入を容易に許容する組織とそれとは対照的に血管網の侵入を積極的に阻止する障壁を持つ組織が混在している。当研究室では、軟骨の無血管性に着目して、ウシ骨端軟骨から血管新生抑制因子Chondromodulin-I(ChM-I)を精製・クローニングすることに成功した。ChM-Iはヒトやマウスでは334アミノ酸残基からなるII型膜貫通型前駆体タンパク質として合成され、プロセッシング酵素によって切断されてC末端120アミノ酸残基が成熟型ChM-Iとして分泌される(図1)。長管骨をはじめとする大部分の骨は、胎生期に軟骨性の鋳型(骨原基)として形成され、軟骨細胞の分化が進んで肥大化・石灰化軟骨細胞となると骨幹部への血管侵入が許容されるようになり、軟骨組織は急速に骨へと置換される(内軟骨性骨化)。この過程においては軟骨細胞外マトリックス環境が大きく変化することが知られているが、ChM-Iは軟骨性骨原基の無血管ゾーンに特異的に局在し、血管侵入に先立つ肥大化・石灰化軟骨細胞層では消失することが明らかとなっている(図2)

ChM-IC末端から約70残基の領域(システイン-リッチドメイン)は8個のCys残基を含めて、種間で極めてよく保存されている。最近このドメインに高い相同性を有する遺伝子が存在することが判明し、TenomodulinTeM)を新たにクローニングした。TeMはヒトやマウスでは317アミノ酸残基からなるII型膜貫通型タンパク質として存在することが明らかとなっており、ChM-Iと同様にC末端領域に血管新生抑制活性を有している(図1)TeMは、毛細血管網に乏しいことが知られている腱や靭帯だけでなく、血管抵抗性組織として知られている眼の水晶体、角膜、強膜などの無血管領域に発現する。

このように、ChM-Iは分泌因子として軟骨の無血管細胞外基質に蓄積し、TeMはII型膜貫通型タンパク質として腱・靭帯などの無血管領域に局在している。これらの発現部位を重ね合せると、間葉系組織の無血管領域をほとんどカバーすることから、周囲からの血管侵入に対する障壁としての機能が示唆されている。

一方で、ChM-IおよびTeMに共通する血管新生抑制ドメインは、腫瘍血管新生を阻害することにより固形腫瘍の造成を抑制する。現在、Folkmanらによって精製されたangiostatinの血管新生抑制活性を担うkringle domainなどと並んで、抗腫瘍薬としての応用が期待されている(J Cell Sci. 2004 Jun 1;117(Pt 13):2731-44)。さらに、ヒトChM-I組換えタンパク質にはT細胞の免疫応答性を低下させ、リウマチモデルマウスの症状を緩和する効果があることが明らかとなり、抗リウマチ薬としての応用も期待されている(Arthritis Rheum. 2004 Mar;50(3):828-39)。

 一方、ChM-I ノックアウトマウスでは,軟骨形成や軟骨内骨化のタイミングに明 らかな異常は見出されなかったことから,ChM-I 以外にも血管侵入抵抗性を与える仕組みが存在することが示 唆された.しかしながら,ChM-I ノックアウトマウスでは,出生後に低代謝回転型の骨代謝を示し骨の代謝バ ランスがシフトした結果,骨量増加が認められた.すなわち,成体の骨においてChM-I がリモデリングファクターとして作用するという新たな機能が明らかになった.