研究紹介 Research Introduction

研究の概要

 組織幹細胞(注1)は組織の細胞数の調節や発癌の標的細胞と考えられています。
組織幹細胞の維持や分化の調節は、ニッチ(niche)(注2)と呼ばれる特別な微小環境が担っていると考えられていますが、その実体や機能は、よくわかっていません。私たちが注目している造血幹細胞は、代表的な組織幹細胞で、骨髄(注3)でリンパ球を含むすべての血球を産生しています(造血)。骨髄のニッチの構造や機能を分子レベルで解明すれば、造血や免疫系形成、組織幹細胞移植、白血病の病態についての理解が大きく進むと考えられます。

 造血幹細胞は、胎児期に、肝臓(胎児肝)から骨髄(注3)移動・定着ホーミング)し、生後は、骨髄ですべての血球を産生し続けます。私たちの研究グループは、胎児肝から胎児骨髄への造血幹細胞のホーミング、骨髄での造血幹細胞の維持、造血幹細胞からBリンパ球の産生に必須の役割を果たすサイトカイン(ケモカイン(注4)ファミリーのCXCL12(SDF-1、PBSFとも呼ばれる。)を明らかにしました。また、骨髄で、CXCL12を高発現する長い突起を持ったユニークな細網細胞(CAR細胞)を見出しました。更に、最近、CAR細胞が脂肪・骨芽細胞前駆細胞であること、造血幹細胞やBリンパ球、赤血球前駆細胞のニッチとして必須の役割をはたすことを明らかにしました。

 私たちはこれらの研究成果を基盤にして、CAR細胞が普段または炎症等のストレスに対応してどのように時間空間的に制御して造血幹細胞や前駆細胞を維持・増殖・分化させるのか? CAR細胞の発生や機能の調節機構は? CXCL12とその受容体CXCR4が、どこで、どのようなしくみで働いているのか?などを中心に研究しています。
 更に、骨髄内での幹細胞・前駆細胞の局在と動きをリアルタイムで観察することにも挑戦しています。

 一方、CXCL12-CXCR4シグナルは、臓器特異的な血管形成、心形成、生殖細胞幹細胞の生殖腺へのホーミングなどに必須であることが明らかとなっています。そこで、生殖腺など種々の組織形成や組織幹細胞の維持におけるCXCL12-CXCR4シグナルの機能と作用機構についての研究も行っています。

 これらの研究は、免疫学・血液学・幹細胞生物学などの基礎医学の他、幹細胞を傷害局所に誘導し、組織を再生させる再生医療や、白血病・がん幹細胞ニッチ、がん細胞の移動・定着であるがん転移などがん研究とも密接に関連しています。

用語解説
(注1)組織幹細胞;ある組織の複数の構成細胞を生み出し、永久・半永久的に自己複製することができる細胞。
(注2)ニッチ、ニッチ細胞;サイトカイン等を提供して、幹細胞、血球、リンパ球の生存・増殖・分化を支持する特別な微小環境、およびそれを構成する細胞。
(注3)骨髄;骨の中心部には骨基質がなく空洞になっており、この空間を占める軟組織。リンパ球などの免疫系担当細胞を含むすべての血球を生涯造り続けている。最近、各種の組織幹細胞や前駆細胞も骨髄に常在し、傷害が起こると骨髄より局所に動員され組織再生に関与すると考えられている。
(注4)ケモカイン;細胞の接着や運動を調節する活性が強いことで知られる構造が保存された小型のサイトカインのファミリー。

研究項目

  1. 造血幹細胞・前駆細胞の調節機構 〜微小環境(ニッチ)に注目して〜
  2. リンパ球発生の制御機構
  3. ケモカインの組織幹細胞、免疫系、血管系における作用機構

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