iRS細胞について

      

  再プログラム化中間細胞
      iRS細胞とはintermediately Reprogrammed Stem 細胞の略称です。ヒトiRS細胞は、体細胞がiPS細胞に再プログラム化される途中に
     出現する細胞です。ヒトiPS細胞は、体細胞の再プログラム化(Reprogramming)によって極低い頻度で出現する細胞で、この過程に
     約一ヶ月の時間を要します(図1)。体細胞がiPS細胞に再プログラム化される途中の細胞は、広義ではPre-iPS細胞(前iPS細胞)と
     総称されています。Pre-iPS細胞は、Partial iPS細胞(部分的iPS細胞)と、iRS細胞に分類されます。Partial iPS細胞とiRS細胞の主な違いは、
     partial iPS細胞からはiPS細胞が出現しないのに対して、iRS細胞はiPS細胞に再プログラム化する能力がある点です(図2)。


   


   特性
      ヒトのiRS細胞は、iPS細胞とは全く異なる細胞形態をもつ細胞です。iPS細胞が偏平な上皮細胞様の形態を示すのに対して、iRS細胞は、
      間葉細胞様の形態を示します(図3)。iRS細胞株は、iRS細胞の性質を維持したまま安定に継代維持できる樹立された細胞集団です。
      現在10株以上のiRS細胞株が樹立され、同様の性質をもつ事が確認されています。ヒトiRS細胞株は40継代以上維持された後でも、
      培養条件を変える事で、iPS細胞への再プログラム化を開始します。再プログラム化が開始されると、外来性の再プログラム化誘導因子
     (山中因子)の発現が抑制され、代わって多能性鍵因子である内在性のOCT4遺伝子が活性化します。
      この時、MET(Mesenchymal-Epithelial Transition)として知られる間葉系細胞から上皮系細胞への形態変化が起き、ヒトiRS細胞が
      iPS細胞コロニー(集団)に変化します。ヒトiRS細胞の特徴的な性質として、単一細胞から細胞コロニーへの増殖が可能な点が挙げられます。
     ヒトiPS細胞は、単一細胞になると細胞死(Apoptosis)のスイッチが入り消滅してしまいます。ゲノム編集(Genome Editing)を含む
     遺伝子改変技術の応用には、低頻度で遺伝子改変が起きた細胞を選び出し、一細胞から増殖させる操作が必要です。
     ヒトiPS細胞ではこの作業が難しい事が、遺伝子改変技術応用の障害になっています。ヒトiRS細胞では、選別単一細胞から
     細胞コロニーへの増殖が可能なため、遺伝子改変iRS細胞コロニーを容易に選別できます。遺伝子改変iRS細胞を作製した後に
     iPS細胞に再プログラム化する事で、遺伝子改変iPS細胞を作りだす事ができます。



   応用
       ヒトiPS細胞での遺伝子改変は、病気の原因遺伝子の機能的証明や、疾患モデル細胞の作製に必要な技術です。また、疾患細胞または
      モデル細胞に効果のある薬剤の選別への貢献も期待されています。ヒトiRS細胞は、臨床応用には適していませんが、遺伝子改変
      ヒトiPS細胞の作製を通じて、医学医療応用に貢献できるのではないかと期待しています(図4)。
ヒトiRS細胞は、7-10日間で
      iPS細胞に再プログラム化されます。再プログラム化の再現性と頻度が高いため、多くの研究者が同じ材料を用いて同じ条件で
      再プログラム化の分子機構解明に迫る事が可能です。再プログラム化の高い再現性が、これまでブラックボックスとされてきた
      分子機構の解明に役立つ事を期待しています。


 下記から動画が見れます

1. OCT4発現がONになる瞬間をGFP蛍光(緑色蛍光)で可視化 

2. OCT4発現ONになった細胞の増殖、iPS細胞コロニーの形成  

 

   論文タイトルと著者
      OCT4 activity during conversion of human intermediately reprogrammed stem cells to iPSCs through mesenchymalepithelial transition.
      著者;勅使河原 利香、平野 邦生、長田 翔伍、Justin Ainscough、多田 高

   用語解説
     *クローニング;細胞培養条件下で、一個の細胞由来のクローンを選別する作業
     *再プログラム化;体細胞がiPS細胞等の幹細胞に変化する現象
     *OCT4;多能性幹細胞でのみ発現する鍵遺伝子。iPS細胞やES細胞のマーカー遺伝子として使われる。
     *GFP;蛍光照射によりグリーンに光るタンパク質。遺伝子活性の追跡に用いられる。

   研究成果・京都大学ホームページ  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/160105_1.html