研究活動 …概要…

本研究室では、ES細胞(胚性幹細胞:embryonic stem cells)及びiPS細胞(人工多能性幹細胞:induced pluripotent stem cells)を用いて、心血管系の細胞分化・再生に関する研究を行っている。

ES細胞は、全ての種類の細胞に分化することができるいわゆる「万能」幹細胞と考えられている。この全能性(pluripotency)をin vitroにおいて引き出し、分化誘導した細胞を再生治療に用いようとする試みが、様々な臓器、細胞をターゲットに行われている。

血管は内腔を一層におおう内皮細胞と、それを外から取りまく壁細胞の2種類の細胞で構成されている。その中を流れる血球細胞を含めて、これら血管構成細胞は互いに密接に連関しあい血管を形作る。VEGFの受容体のひとつであるFlk1は、血球・血管系細胞の最も早期の分化マーカー、および中胚葉のマーカーと考えられている。

我々は、ES細胞を用いて、in vitroにおいて中胚葉、さらには血管の構成細胞である血管内皮細胞と壁細胞(血管平滑筋細胞およびペリサイト)を選択的に分化誘導し、最終的に血管としての高次構造をin vitroおよびin vivoにおいて構築すること、いわば血管の発生過程を再現することに成功した(Yamashita, Nature, 2000.)。

このin vitro分化系では、Flk1陽性細胞を共通の前駆細胞として、内皮細胞、壁細胞、血球細胞が分化し、さらにそれらの細胞が血管としての高次構造を形成する。また、中胚葉由来の細胞の一つである心筋細胞も同様にFlk1陽性細胞から分化誘導することと共に、新しい心筋前駆細胞の同定に成功している(Yamashita, FASEB J, 2005)。さらに動静脈リンパ管内皮細胞分化や心筋ペースメーカー細胞など、多様な心血管細胞の分化誘導を行っている(Yamashita, Trends Cardiovasc Med, 2007; Yanagi, Stem Cells, 2007他)(下図)。

山下研研究概略図

近年我々は、免疫抑制剤のサイクロスポリンAがFlk1陽性中胚葉細胞に特異的に作用し、心筋前駆細胞及び心筋細胞の分化を促進する、という全く新しい作用を見出した(Yan, Biochem Biophys Res Commun, 2009)。この研究成果をもとに、心筋細胞の効率的分化を誘導する低分子化合物の探索を行っている。

また、血管内皮細胞の分化を培養下において構成的に再現することにより、cAMPシグナルの意義を次々に明らかにした。すなわち、Protein kinase Aが血管前駆細胞のVEGFへの感受性を変化させて内皮細胞分化を促進していること(Yamamizu, Blood, 2009)、同作用がCREBによる転写因子Etv2発現誘導によること(Yamamizu, Stem Cells, in press)、痛覚に関与するオピオイドがcAMPシグナルを抑制することにより内皮分化・血管形成に抑制的に作用していること(Yamamizu, Blood, 2011表紙)、及びNotchとβ-cateninが直接相互作用することにより動脈内皮への運命決定を行っていることを新たに示した(Yamamizu, J Cell Biol, 2010)。

さらに、本研究所山中伸弥教授によって樹立された人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いて同様の実験システムを構築し、新たな心血管再生研究を開始している。ES細胞研究において蓄積したノウハウを用いて、いち早くマウスiPS細胞を用いた心血管系細胞の分化誘導に成功した(Narazaki, Circulation, 2008)。またサイクロスポリンAの作用を応用し、ヒトiPS細胞からの機能心筋細胞を誘導することにも成功した(Fujiwara, PLoS One, 2011)。さらに高効率な新しいヒトiPS細胞の心筋分化法と誘導心筋細胞の純化法の開発にも成功した(Uosaki, PLoS One, 2011)。

このように我々のES細胞を用いたin vitro分化系は、種々の循環器系の細胞群を系統的に分化誘導することができ、心血管の発生分化過程を培養下に恣意的に操作しながらしかも経時的に観察できる。従って、この分化系を用いることにより心臓血管の発生分化のメカニズムを細胞レベル、分子レベルで検討し、ノックアウトマウスの形質解析に依存していた分化の分子機構の解析をin vitroで行うという新しいアプローチが可能になったと考えられた。またこれらの知見を様々な形で再生医療を中心とした応用研究に展開することができる。

現在我々は、ES細胞、iPS細胞によるin vitro分化系を用いて、次のようなプロジェクトを遂行及び予定している。

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