がんに関する研究
戸口田が、京都大学医学部附属病院整形外科で担当している領域は、骨・軟部に発生する腫瘍の診断・治療です。これらのうち、悪性のものは肉腫とよばれ、上皮系腫瘍の悪性腫瘍であるがん腫に相当します。高率に再発・遠隔転移を来たす極めて悪性度の高いものもあり、更に四肢の関節近傍に発生した場合は大きな機能の消失を伴う場合があります。私たちは、この肉腫に関する基礎的な研究を通じて、生命予後及び機能の改善を目標とした研究を行っています。
肉腫の発生機構に関する研究
肉腫の診断・治療に関する研究
再生医学の肉腫治療への応用
肉腫の発生機構に関する研究
私たちのグループは、過去20年間以上にわたって、骨・軟部腫瘍の分子生物学的解析を継続しており、総計1,000例以上の様々な腫瘍組織を凍結保存しています。その組織を用いて、これまで肉腫の発生にどのような遺伝子の異常が関与しているのかを解析し、特に網膜芽細胞腫遺伝子・p53遺伝子などの癌抑制遺伝子の解析結果を報告してきました。
現在は下記の研究を行っています。
1.p53遺伝子欠損マウス由来骨芽細胞を用いた研究
p53遺伝子欠損マウスより骨芽細胞を採取し、更に網膜芽細胞腫蛋白の機能を阻害することで、性質の異なる3種類の肉腫細胞を作成しました。これらの間で遺伝子発現等を比較することで悪性度や骨形成能と関連した遺伝子の単離、解析を進めています。
2.肉腫における間葉上皮転換機構の研究
同一の腫瘍組織の中に線維芽細胞様の腫瘍細胞と上皮構造を呈する腫瘍細胞が混在している腫瘍を癌肉腫(carcinosarcoma)とよびます。わたちたちはその一つである滑膜肉腫という軟部肉腫について、上皮構造形成の分子機構を解析しており、特に密着結合(tight junction)を形成する分子であるクローディン分子に注目して研究を進めています。
3.肉腫幹細胞の研究
近年、がん組織を構成する細胞の中で真に腫瘍形成能をもつ細胞は、ごく一部であり、他の細胞はその細胞の子孫細胞であるとの説が提唱されています。そのようながんの本態を担う細胞は、組織幹細胞にならってがん幹細胞(Cancer stem cellあるいはCancer initiating cell)とよばれており、肉腫においてもそのような幹細胞が存在していることを示す報告があります。わたしたちはこの肉腫幹細胞とMSCとMSCとの類似点と相違点に関する解析を進めています。
肉腫の診断・治療に関する研究
骨・軟部に発生する腫瘍、特に軟部肉腫は、形態学的特徴に乏しく、診断に難渋する場合があります。この課題に対して近年、腫瘍特異的遺伝子の同定、あるいは遺伝子発現全体のプロファイルからの分類が試みられています。
1.腫瘍特異的遺伝子変異を用いた遺伝子診断
特に染色体相互転座により形成される融合遺伝子は、特異性、感受性の両面において、有用であることから、既に臨床上の補助診断としての地位を確立しつつあります。研究室では、近畿地区の他の施設からのコンサルトを含め、遺伝子変異解析を広く展開しています。
2.網羅的解析からの肉腫の分類
肉腫の中でも、診断が困難であると考えられる紡錘形細胞肉腫と群別される腫瘍群に対し、遺伝子発現プロファイルからの分類を試み、滑膜肉腫と悪性末梢神経鞘腫瘍が同一の祖先を持つ腫瘍であることを明らかにしました。
3.新規分子標的治療の開発治療
多くのがんにおいて細胞の増殖や悪性形質に関連した分子を特異的に標的とする治療法の開発が進められています。私たちは、発現プロファイルから、まず滑膜肉腫における標的としてFGFシグナル受容体及びWntシグナル受容体を同定し、治療への応用を検討しています。更に、肉腫全体を通じて、悪性度と関連した遺伝子の同定に成功し、現在、その機能の解析を進めています。
再生医学の肉腫治療に対する応用
京都大学医学部附属病院整形外科では、1980年より悪性骨腫瘍に対し大量の放射線を照射し、照射された骨を、そのまま再建に使用するという治療法が開発されてきました。時代とともに、放射線の量、照射方法(体内で照射する方法から、切除後体外で照射する方法)、更に放射線処理に変わって液体窒素による凍結処理を用いる方法などと、変遷を遂げてきていますが、基本的な「自家処理骨を用いた再建」という概念は共通しています。このような処理骨を用いた再建は、自家組織を用いるという点で優れたものですが、再生まで長期間を必要とし、その間に骨折・感染等の合併症が高率に発生するなどの問題点があります。私たちは、現在進行中の骨壊死に対する治療法を、将来は処理骨に応用して、より早期にかつ長期的に安定な患肢再建法を創成することを目指しています。








